電気魚ってなんだ?

魚のなかには、電気を発生する能力を進化させたものが数多く存在します。強い電気を出し、馬のような大きな動物をも感電させてしまう、デンキウナギはあまりにも有名です。デンキナマズや、シビレエイも同じく強い電気を発生します。これらの魚は強い電気を出すので「強電気魚」と呼ばれます。 しかし、大部分の電気魚は、熱帯・亜熱帯の淡水域に住むいわゆる「弱電気魚」です。弱電気魚は弱い電気しか出しませんが、自然が生み出したエレクトロニクスとでも言うべき精巧な電気感覚・運動系を用いて、レーダーのように環境の様子を探索したり、仲間同士でコミュニケーションをすることができます。

強電気魚も弱電気魚もみな、尾の中にある「電気器官」(electric organ) という特殊な器官から電気を発生します。

電気器官の中には、電気細胞(electrocyte)と呼ばれる興奮性の細胞が並んでいます。電気細胞は脳にあるペースメーカーと呼ばれる部分から一斉に発電のための信号を受け取り、同時に短時間興奮します。興奮(firing)の瞬間、電気細胞は下図のように非対称に分極するので、ちょうど多数の電池を直列に接続したようになり、まとまった電気を発生するのです(Electric Organ Discharge、EOD)。

強電気魚では、電気器官は巨大で多数の発電細胞がぎっしりつまっています。このため発電電圧も最高で600ボルトに達します。これに反して、弱電気魚では電気器官は小型で、発電電圧も1ボルト以下の微弱なものです。

また、電気魚は、発電のしかたにより、ミリ秒単位の短い電気パルスをだすパルス種と、連続的に周期波を出すウェーブ種に分けられます。パルス種のパルスの長さは、0。5−10ミリ秒程度、ウェーブ種では、周波数は50から1200ヘルツ程度です。すべての強電気魚と一部の弱電気魚がパルス種、その他の弱電気魚はウェーブ種に属します。

上に述べた全ての電気魚は、電気を発生するだけでなく、敏感な感覚器を持ち、これで弱い電気を感じることができます。電気を捉えるために特殊化した感覚器は体中の皮膚に無数に存在しており、「電気受容器」と呼ばれます。

電気受容器には2つの機能があります。一つは環境の様子をさぐる「電気定位」(electrolocation)です。下図のように付近に物体があると、電気器官からの発電によってできた電気の場、(電場)が乱れます。これを電気受容器が捉えることによって、電気魚は暗黒中でも水の濁った環境中でも周りの様子を知ることができるのです。このタイプの電気定位では、電気魚が自分の電気器官から発生した電気を利用するので、「能動的電気定位」と呼ばれます。

電気受容器の第二の機能は電気コミュニケーションです。電気魚のあるものは、電気信号を使って、種や性別の認識を行なうことがわかっています。電気コミュニケーションについては、コーネル大学のカール・ホプキンス教授のホームページをご覧ください。

魚類のあるものは、発電の能力は欠くものの、敏感な電気受容器を備えていて、やはり「電気魚」の仲間に入れられています。サメ、エイ、ガンギエイ、paddle fishがこのカテゴリーに属し、獲物の出す微弱な電気をとらえることによって、砂の中に隠れた獲物を電気的に見つけることができます。このタイプの電気定位は、獲物から発生する電気が利用されるので、「受動的電気定位」と呼ばれます。

ここで、電気魚の種類をまとめてみましょう。

  • 強電気魚
    • デンキウナギ
    • デンキナマズ
    • シビレエイ
  • 弱電気魚
    • 種々のナイフフィシュ
    • エレファントノーズ等の電気魚
  • 電気感覚のみを有し電気器官のない電気魚
    • ヤツメウナギ
    • 肺魚(Dipoi)
    • サメ
    • エイ
    • ガンギエイ
    • パドルフィッシュ
    • チョウザメ
    • カモノハシ(魚ではないが電気感覚あり)

混信回避行動

ウェーブ種の電気魚では、電気定位のために常に発電を続けるのですが、個体によってそれぞれ発電の周波数が決まっていて、発電周波数は通常は変化しません。しかし、発電周波数の近い2尾が出会うと、互いに発電周波数を変更し相手の周波数との差を広げる行動をとるのです。これは、発電周波数の近い相手との間で発電の干渉が起きし、電気定位の能力がそこなわれるのを避けるためです。この行動を混信回避行動(jamming avoidance response)と呼びます。

カリフォルニア大学のHeiligenbergらは、電気魚の脳が混信回避行動の際、相手の周波数が自分より高いのか低いのかを見分けるために、複雑な情報処理を行なっていることを明らかにしました。混信回避行動のための情報処理の過程は、動物一般、さらにはヒトの視覚や聴覚系などにおける感覚情報処理の過程にも共通したもので、神経系による情報処理の一般原理をさぐるためのモデルシステムとして注目されています。本研究室では、主に混信回避行動の脳内機構を動物行動学、神経生理学、神経解剖学の手法を用いて研究しています。